
マルトリートメントって何?あなたの何気ない言動が子どもの脳に与える衝撃
マルトリートメントとは
「マルトリートメント」という言葉は聞いたことがあっても、具体的にはどんな内容を指すのか、よくわからないという方も多いでしょう。
実は、マルトリートメントとまったく無関係な親のほうが少ないかもしれません。
ここでは、マルトリートメントについての説明や具体例、子どもにあたえる影響、対処法について分かりやすく説明していきます。
マルトリートメントの意味
マルトリートメント maltreatment
マル(悪い)トリートメント(あつかい)
海外では一般化している概念「マルトリートメント」とは、子どもへの身体的、性的、心理的虐待及びネグレクトであり、日本でいう児童虐待ですが、もう少し広い意味で「不適切な養育」と訳されます。
小児発達学が専門で、マルトリートメント児を研究している福井大学の友田明美さんは「子どもへの避けたいかかわり」と呼んでいます。
多くの子どもがマルトリートメントを受けている
WHO(世界保健機関)から次のような報告があります。
- 成人の約4分の1が小児期に身体的虐待を受けた
- 女性の5人に1人、男性の13人に1人が性的虐待を受けた
- マルトリートメントを受けると、生涯にわたり身体的・精神的健康を損ない、国の経済発展と社会成長を遅らせる
マルトリートメントは増えています
全国の児童相談所のマルトリートメント対応件数の推移をみると、年々増加していて、1990年に1101件だったのが、2020年には20万5029件に増えています。
マルトリートメントの子どもへの影響
脳へ深刻なダメージ
福井大学の友田明美さんらの研究によると、マルトリートメントを受けた子どもの脳は、委縮したり変形したりすることがわかっています。
具体的な影響
マルトリートメントを受けた子どもには、具体的に次のような影響が出ると言われています。
- 非定型発達(標準と異なる発達)を遂げる
- 愛着(アタッチメント)障害を引き起こす
- 長期にわたる場合、心の傷(トラウマ)が健康や寿命を損ね、疾病の発生リスクが3倍、寿命が20年短くなる可能性がある
- うつ病、アルコール・薬物依存、PTSD、自殺企図、摂食障害、睡眠障害などの精神疾患のリスク上昇
- 脳神経発達に支障が出るため、社会的・情緒的認知に問題
- これらの症状により医療費増加という社会的問題
こんなこともマルトリートメント!?
虐待と一言でいうと自分には関係ないと思われるかもしれませんが、日常生活によくあるこんなこともマルトリートメント、つまり「子どもへの避けたいかかわり」なんです。
以下は、友田明美さんのマルトリートメントチェックリストからの引用です。
心理的マルトリートメント
- 子どもを兄弟(姉妹)と比較して批判したり、親戚などの前で笑いものにする
- 子どもの苦手なところが気になり「あなたは何をやっても出来ない」などと言う
- 頭に血が上がって、大声で怒鳴ってしまう
- 「あなたは、女の子だから~」などと、性別で子どもの行動を制限する
- 親の気分によって、同じ行動でも、子どもを叱るときと叱らないときがある
- どんなことでも基本的には子どもの意見を聞かずに、親が決めてしまう
- 子どもが失敗したことを責めたり、失敗した理由を問い詰めたりする
面前DV(心理的マルトリートメントの一種)
- 子どもの前で夫婦げんかをする
- 子どもに夫(妻)への文句を話す
- 夫婦間での暴力がある
- 夫婦間に支配関係があり「誰のお陰で暮らせているんだ」などと言ったりする
- 人前で妻(夫)を「ダメなやつで・・・」などとバカにする
- 大切にしている物を、夫(妻)が壊す
- 夫(妻)が妻(夫)の交友関係を制限する
- 子どもに夫(妻)への文句などを言わせる
身体的マルトリートメント
- 子どもが言ってもわからないときに、手加減をしてたたく
- 子どもは、言葉だけでは理解できないため、体罰は必要だと考えている
- 子どもが約束を守れなかったときなど、罰として食事を抜く
- 食べ残しは禁止しているため、子どもが「おなかいっぱい」だと言っても無理やり食べさせる
- 子どもが体調不良を訴えても、無理やり学校や塾に行かせる
ネグレクト
- 仕事や家事が忙しく、子どもと触れ合う機会がほとんどない
- 子どもが泣いても、さまざまな理由で無視する
- 子どもにスマートフォンを長い時間渡して、おとなしくしてもらうことが多い
- 子どもを家に残して、数時間外出する
- 忙しくて食事を作れないことが多く、子ども自身でカップ麺やレトルトなどで済ませることが多い
- 子どもが体調不良を訴えても、病院や薬局へ連れて行かない
- 子どもに必要な予防接種を受けさせない
性的マルトリートメント
- 子どもが嫌がっているにもかかわらず、お風呂のあとなどに裸で過ごす
- 嫌がる子どもと一緒にお風呂に入る
- 夫婦の性的な関係を子どもに話す
- 性的な映像や雑誌などが、子どもの目に触れるところに置いてある
- 子どもの裸の写真を撮る
- 親の性器を子どもに触らせる
- 子どもを性的な対象として扱う
いかがでしょうか。心あたりがある方も多いのではないでしょうか。
虐待というと身体的暴力をイメージしますが、それ以外にもたくさん当てはまることがあります。
しかも、身体的暴力よりも暴言などのDV目撃の方が、子どもの脳への影響が大きいことがわかっています。
マルトリートメントによる成長の遅れは回復する!
一度マルトリを経験した子どもでも、早期の対応により、成長の遅れを取り戻すことができます。
愛着の再形成を通じて、身長や体重の回復も見られることがあり、認知処理療法やマインドフルネスによるストレスの軽減も有効で、周囲の支援を通じて、子どもが安心できる生活を取り戻すことができます。
愛着の再形成には、子どもを褒めることが大切です。褒めることでドーパミンが放出され、脳が回復することがわかっています。
マルトリートメントを予防するために
マルトリートメントの予防方法
マルトリートメントを予防するためには、親子で良好な関係を築くことが不可欠です。具体的には、以下の方法が有効です。
- コミュニケーションを増やす:スマホなどのデジタル機器から離れ、子どもと直接関わり、自然の中で遊ぶことが推奨されています。
- ほめる習慣をつける:ドーパミンが放出され、子どもの脳の血流が増加します。これにより、発達に良い影響を与えます。
- 安心できる環境を整える:子どもが安心して生活できる場を提供し、愛着の形成を支援することが、マルトリートメントの予防につながります。
- 周囲のサポートを活用する:子育てにおいて孤立せず、家族や保健所、児童相談所、地域のコミュニティの力を借りることが重要です。最近では、オンラインでのペアレントトレーニングも増えてきており、育児ストレスを軽減するために役立ちます。
完璧な子育てなんてない
「ながら育児はネグレクト」、「スマホやタブレットを与えるのは危険」と言われても、そうせざるを得ないこともありますね。
完璧な子育てなんてありません。むしろ「完璧に」という考えが、逆にマルトリートメンにつながることがあります。
親が疲れているときは、感情的になりやすいものです。疲れているときは休みましょう。そして、できればスマホなどのデジタル機器から離れ、外に出て自然の中で親子のコミュニケーションを増やすのがいいですね。
それでも状況が改善しないと思うときは、遠慮せずに周りにサポートを求めることが大切です。